藤田明税理士事務の得意分野は不動産、建設です。
アパート、マンション経営の申告おまかせください。
土地建物売買と税金
(譲渡所得計算と居住用財産の特例)
目次
1.譲渡所得とは
2.取得費について
3.取得費が不明の場合の取扱い
4.取得費が不明の場合の実務対応
5.申告後の調査で否認されないポイント
6.居住用財産の譲渡
7.居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
8.居住用財産(自己の居住用)を譲渡した場合の3,000万円特別控除
9.空き家とは
10.固定資産税
11.居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3000万円控除
相続のお手伝いをした方々の相続後を拝見していますと、1~2年後には土地建物を売却されるケースが多いです。
相続直後の譲渡は相続税を捻出するためのことが多いようですが、・・
相続後の場合:
事例2の方はご両親がなくなって、姉、妹で相続されました。お二人は既に結婚して
別の場所に住んでいますので、両親の自宅は売却して売却額を2分の1 づつお分けになりました。
事例3の方は母親と一人娘のご家庭でしたが、母が亡くなると長女の方は共に住んでいた家土地を1年後には売却して近くのマンションへ買換えを行っています。
事例1の方は都内に両親がお住まいでした。
長男一人での相続でしたが、既にご自身は持ち家でした。10年ほどは相続した家を空き家にしていました。
10年後に売却しています。
相続前:
相続前を考えてみますと今日お集まりの方々は50~60歳代の方々と思われるのですが退職後子供が独立したときには、郊外の家を売って、便利な駅前のマンションに引越しをするとか、子供の家の近くの場所に住み替えるなどあるのではないでしょうか?
以上のように土地建物の売却、買換えは普段から考えておく必要があるのではないかと存じます。
職業柄、この土地を売却したら税金はいくらかかりますか? という
ご質問が時々ありますが・・・
土地の所有者が個人と法人で分けてみますと、
(1)個人が所有の土地を売った場合
イ 短期か長期か
土地建物を売った年の1月1日現在でその所有期間が5年を超える場合は長期譲渡
所得にあたり、5年以下の場合は短期譲渡所得に該当します。
税率 (復興特別所得税別途あり)
区分 所得税 住民税
長期譲渡所得 15% 5%
短期譲渡所得 30% 9%
確定申告の時には復興特別所得税(2.1%)もかかる。
「土地は5年を超えてから売ると節税になる」
ロ マイホームを売って譲渡益がある場合
① 最高 3,000万円まで控除される。
② 軽減税率の適用
マイホームの所有期間が10年を超えていると
(復興特別所得税別途あり)
課税長期譲渡所得 所得税 住民税
6、000万円までの部分 10% 4%
6,000万円を超える部分 15% 5%
(2)会社所有の土地を売った場合
法人所有の土地を売った場合は、売却益が出たときは、会社の損益計算に入り
税引き前損益を構成します。法人の純損益が800万円以下の場合は法人税が
15%、800万円を超えると23.4%となります。
1. 譲渡所得とは
譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいいます。
譲渡所得には株式、書画、骨とう、金地銀、ゴルフ会員権などありますが、今回は土地建物の譲渡所得に焦点をあてています。
譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中のその所得に
係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費およびその資産の譲渡に要した
費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(その各号のうちいずれかの号に掲げる
所得に係る総収入金額が当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の
特別控除額を控除した金額とする。
基本計算
収入金額(売却金額)-(取得費+譲渡費用)-特別控除=譲渡所得
譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい(所法33①)資産の所有期間中に
その価値が増加したこと(キャピタルゲイン)に対して所有を離れる機会をとらえその担税力に着目して課税するものです。
譲渡所得の課税対象
譲渡所得の対象となる資産には、土地、借地権、建物、株式等、特定の公社債
金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権
ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などが含まれます。
なお、貸付金や売掛金などの金銭債権は除かれます。
資産の譲渡とは
譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、
通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人にたいする
現物出資なども含まれます。また、次の場合にも資産の譲渡があったものとして課税されます。
イ 法人に対する贈与や遺贈、時価の2分の1未満の価額による譲渡
ロ 限定承認の相続や限定承認の包括遺贈(個人に対するものに限られます。)
(2)1億円以上の有価証券等を所有している一定の居住者が国外転出等をする場合
(3)地上権や賃借権、地役権を設定して権利金などを受取った場合
建物や構築物を所有するための地上権や賃借権(以下「借地権」といいます。)
の設定などにより受ける権利金などについても、その金額が借地権の設定された土地の時価の2分の1(地下又は空間について上下の範囲を定めたものである場合等は
4分の1、大深度事業と一体的に施行される事業により設置される施設等の全部の
所有を目的とする地下についって上下の範囲を定めたものである場合は4分の1にさらに一定の割合を乗じたもの)を超える場合には、譲渡所得として課税されます。
(4)資産が消滅することによって補償金などを受取った場合
収用などにより、借地権、漁業権などの資産が消滅したり、その価値が減少することにより一時に補償金などを受取ったときは、その補償金などは譲渡所得として課税されます。
棚卸資産など営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は、譲渡所得に含まれない、事業所得になる。
総合課税(書画骨董、金地銀、ゴルフ会員権)
(各種の所得を合計して所得税の金額を計算する)
総合長期譲渡所得=
(譲渡収入金額― 取得費―譲渡費用―特別控除(50万円)×1/2
総合短期譲渡所得
=譲渡収入金額―取得費―譲渡費用―特別控除(50万円)
分離課税
(他の所得と分離独立して計算する)
土地建物の譲渡
土地建物の譲渡に係る課税方式で譲渡所得を他の所得と分離独立して計算し税額の
計算を行う。
対象資産 土地、借地権、建物、建物付属設備
分離長期(短期)譲渡所得
=譲渡収入金額―取得費―譲渡費用―特別控除
別途復興特別所得税あり ( )内は住民税の税率
土地等分離課税対象資産 分離長期一般 譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超える土地等 譲渡所得金額×15%(5%)
分離長期特定 譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超える土地等で優良住宅地の造成等のために譲渡したもの 譲渡所得金額が2000万円以下
譲渡所得金額×10%(4%)
譲渡所得金額が2000万円超
(譲渡所得金額-2000万円)×15%(5%)+200万(80万)
分離長期軽課 譲渡の年の1月1日において所有期間が10年を超える土地等で居住用財産に該当する資産 譲渡資産が6000万円以下 10%(4%)
譲渡所得金額が6000万円超
(譲渡所得金額―6000万円)×15%(5%)+600万円(240万円)
分離短期一般 譲渡の年において所有期間が5年以下の土地等 譲渡所得金額×30%(9%)
分離短期軽減 譲渡の年の1月1日において所有期間が5年以下の土地等で国等に
譲渡又は収用等で譲渡したもの 譲渡所得金額×15%(5%)
2.取得費の確認
① 取得費には、売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか
設備費や改良費なども含まれます。
なお、この減価償却費相当額は、その建物が事業に使われていた場合と
それ以外の場合では異なっており、それぞれ次に掲げる額となります。
・事業に使われていた場合
建物を取得してから売却するまでの毎年の減価償却費の合計額になります。
(注)仮に毎年の減価償却費の額を必要経費としていない部分があったとしても
毎年の減価償却費の合計額とすることに変わりはありません。
・事業に使われていなかった場合
建物の耐用年数の1.5倍の年数に対応する旧定額法の償却率で求めた1年当たりの減価償却費相当額にその建物を取得してから売るまでの経過年数を乗じて計算します。
法人税法とは異なり所得税法では、届出がなければ定額法又は旧定額法となる。(所法 49 所令125)
②その他の取得費は以下のとおりです。ただし事業所得などの必要経費に算入されたものは含まれません。
(1)土地や建物を購入(贈与、相続又は遺贈による取得も含みます。)
したときに収めた登録免許税(登記費用も含みます。)、不動産取得税、
特別土地保有税(取得分)、印紙税
なお、業務の用に供される資産の場合には、これらの税金は取得費に含まれません。
(2)借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために
支払った立退料。
(3)土地の埋め立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用。
(4)土地の取得に際して支払った土地の測量費。
(5)所有権などを確保するために要した訴訟費用。
(6)建物月の土地を購入して、その後おおむね1年以内に建物を取り壊すなど、
当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用。
(7)土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子。使用しないで譲渡した場合には、その譲渡の日までの期間に対応する部分の利子となります。
(8)既に締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金。
③土地と建物を一括購入している場合の取得費
1.購入時の契約等で土地もしくは建物の価額がはっきりしている場合
その価額を基にする
2.購入時の契約書等により建物の消費税相当額がわかる場合
建物の取得価額=その建物の消費税額× 1+消費税の税率
消費税の税率
3.購入時の契約等により土地建物の価額が区分されていない場合
この場合は土地建物ともに時価の割合で区分することになる。
固定資産税評価額などを使用することもある。
国税庁が発表している「建物の標準的な建築価額表」を使用してもよい。
④ 買換えなどで取得した資産の取得費及び取得時期
原則として取得費は、土地の場合、買い入れた時の購入代金や購入手数料などの合計額です。建物の場合は、購入代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた額です。
しかし、居住用財産の買換えなどの特例を受けて取得した土地建物の取得費は、
その土地建物を取得した時の実際の購入代金ではありません。
売った資産の取得費(旧資産の取得費)を一定の計算により買換えた資産の取得費として引き継ぐことになっています。
このような売った資産の取得費が買換えた資産に引き継がれることになる買換えなどの特例は、主なものとして次のものがあります。
イ 固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例
ロ 収用交換等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例
ハ 特定の居住用財産の買換え又は交換の場合の譲渡所得の課税の特例
ニ 特定の事業用資産の買換え又は交換の場合の譲渡所得の課税の特例
(居住用財産の買換えの場合の取得費の計算)
(1)譲渡資産の譲渡価額≧買換え資産の取得価額 ⇒
5000万円 4000万円 取得価額250万円 経費100万円
イ 総収入金額=収入金額―買換資産の取得価額
5000万円―4000万円=1000万円 ㋑
必要経費=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)× ㋑ ㋺
譲渡資産の譲渡価額
必要経費 (250万+100万)×1000万/5000万=70万円
長期譲渡所得 ㋑ - ㋺
1000万円―70万円=930万円
ロ 取得費
(譲渡資産の取得費+譲渡資産の譲渡費用)×買換取得資産の取得価額
譲渡資産の譲渡価額
(250万円+100万円)×4000万円/5000万円=280万円
(2)譲渡資産の譲渡価額<買換え資産の取得価額 ⇒
5000万円<6000万円
イ 収入金額なし
ロ 取得費
(譲渡資産の取得費+譲渡資産の譲渡費用)
+(買換え取得資産の取得価額―譲渡資産の譲渡価額)
(250万円+100万円)+(6000万―5000万)=1,350万円
(特定事業用資産の買換えの場合の取得費の計算)
(1)譲渡資産の譲渡価額≧買換え資産の取得価額 ⇒
(譲渡資産の取得費+譲渡資産の譲渡費用) × 買換資産の取得価額×80%
譲渡資産の譲渡価額
+ 買換え資産の譲渡価額×20%
(2)譲渡資産尾譲渡価額<買換え資産の取得価額 ⇒
(譲渡資産の取得費+譲渡資産の譲渡費用)×80% +(買換取得資産の
取得価額)-(譲渡資産の譲渡価額×80%)
(3)譲渡資産の譲渡価額=買換え資産の取得価額 ⇒
(譲渡資産の取得費+譲渡資産の譲渡費用)×80% +(買換取得資産の
取得価額×20%)
(取得時期)
譲渡所得が長期になるか短期になるかは、譲渡した土地・建物の取得の時期を基として
判定します。
(1)原則
取得の時期は、土地建物を実際に買い入れた日とするのが原則です。
(2)特例(取得時期の引継)
交換、買換えなどで取得した土地建物の取得の日は、旧資産の取得の日を引き継ぐものと
実際の取得の日となるものがあります。
(旧資産の取得日を引継ぐもの)
イ 固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例
ロ 収用交換等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例
ハ 特定の交換分合により土地等を取得した場合の課税の特例
これらの特例を受けて取得した土地建物を譲渡した場合は、この特例を受けるために
譲渡した資産の取得時期をそのまま引き継ぎます。
買換資産の取得の日は買換資産の実際の取得の日になります。
買換資産の実際の取得日となる特例
措法36の2 特定の居住用財産の買換えの特例
措法37 特定の事業用資産の買換えの特例
④ 相続や贈与によって取得した資産の取得費及び取得時期
相続(限定承認の場合を除きます。)や贈与により取得した場合の取得費は、死亡した人
(被相続人)や贈与した人がその土地建物を買い入れた時の購入代金や購入手数料などを基に計算します。
なお、業務に使われていない土地建物を相続や贈与により取得した際に相続人や受贈者が支払った登記費用や不動産取得税の金額も取得費に含まれます。
取得の時期は、通常、売却した土地建物を実際に買い入れた日ですが、相続や贈与で
取得した時は、死亡した人や贈与した人の取得の時期がそのまま取得した人(相続人、受贈者)に引き継がれます。
したがって、死亡した人や贈与した人が取得した時から、相続や贈与で取得した人が譲渡した年の1月1日までの所有期間で、長期譲渡か短期譲渡かを判定することになります。
⑤ 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
取得費に加算する相続税額
平成27年1月1日以後に開始する相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合の算式は、土地等又は土地等以外の区分にかかわらず、次のとおりとなります。
「算式」
その者の相続税額×その者が譲渡した土地等の相続税評価額÷その者の相続税の課税価格=取得費に加算する相続税額
3.取得費が不明の場合の取扱い
①国税庁HPの質疑応答
譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費は、土地の場合、買い入れた時の購入代金や購入手数料などの合計額です。建物の場合は、購入代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた額です。
しかし、売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなどの
ため取得費がわからない場合には、取得費の額を売った金額の5%相当額とすることができます。
また、実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も同様です。
例えば、土地建物を3,000万円で売った場合に取得費が不明の時は、売った金額の
5%相当額である150万円を取得費とすることができます。
②概算取得費
「租税特別措置法」
(長期譲渡所得の概算取得費控除)
第31条の⒋ 個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等
又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する
取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の百分の五に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第38条第2項の規定を適用した場合に同行の規定により取得費とされる金額
「租税特別措置法通達」
(昭和28年以後に取得した資産についての適用)
31の4-1 措法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、
昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。
4.取得費が不明の場合の実務対応
①土地等の場合
市街地価格指数等の変動率に基づき計算する方法で、譲渡価格を変動率で割り戻して、取得費相当額を推計します。建物については国土交通省の建築統計年報の数値が参考になります。(国税庁HPにも掲載されています。)
②採用可能な変動率
市街地価格指数以外の変動率としては、路線価格の変動率、公示価格、基準地価格の変動率、固定資産税評価額の変動率が考えられます。
市街地価格指数は、日本不動産研究所が、全国主要都市内で選定された宅地の調査地点について、各年3月末及び9月末の年2回、不動産鑑定士等による価格調査を行い、これを基に指数化したものであり、市街地の宅地価格の推移を現す指標です。古い年度のものも比較的入手が容易なのですが、全国を6大都市とそれ以外の市街地とに区分した商業地、住宅地、工業地の広い地域の変動率を表示しています。そのため、個々の土地にたいする変動率としては信頼性がやや劣ると判断されます。
公示価格と基準地価格は、それぞれ国土交通省と地方自治体が公表している土地取引の指標とされる価格で、過去の情報も容易に入手することが可能です。全国の地域を網羅的に
標準地が置かれていることから、個々の土地に対する変動率としては信頼性があると判断されます。調べる場合には、付番されている番号の変更や、所在地の変更がありますので、
注意が必要です。
相続税路線価によって変動率を査定する場合には、平成3年分までは評価水準が公示価格水準の70%程度、平成4年度以後は公示価格水準の80%程度で路線価が評定されていることに注意する必要があります。古い路線価は国会図書館などの大きな図書館で調べることができます。相続税路線価が把握できた場合には、個々の土地に対する評価額であることから変動率の信頼性も極めて高いと判断されます。
固定資産税評価額は、個々の土地に対する評価額であることから、場所的同一性は高いのですが、3年ごとの評価替えであるため、改定年度でない場合には、前後2年間の評価額の変動から1年ごとの変動率を査定する必要があります。また、相続税路線価と同様に平成6年までと平成9年以後では評価水準に違いがあります。(評価水準は概ね20%から70%に変更されたといわれています。)管轄の自治体で資料が保存されている限り、古い評価証明書を入手することが可能です。
変動率適用の例
ある宅地の取得費については、本件物件の譲渡価額31,500,000円からその建物の取得費6,279,624円を控除した25,220,376円にこの宅地の譲渡時の平成9年9月の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)6,826に対する取得時の昭和59年3月の当該価格指数5,241の割合を乗じて計算した19,364,194円となる
③変動率以外の推計
購入時の通帳、借入金額、家計簿、日記などの直接的な証拠資料ではないが、疎明資料に基づいて取得費相当額を推計します。これらの疎明資料に基づく推計計算の方が、変動率に基づく推計よりは信頼性が高い場合が多いと考えられます。
5.申告後の調査等で否認されないためのポイント
① 実際の取得費の徹底した捜索
・依頼者からのヒアリング
購入した時の状況、仲介した不動産業者、契約書等の保管、資金調達、
借入金融機関などについて聴取します。賃貸用不動産、事業用不動産については、
青色決算書、不動産収支明細書等の申告書類、総勘定元帳の帳簿類などが残っていないかを
聴取します。
相続人等で直接購入に関与していない場合には、相続関係書類の保管等についても聴取します。また、購入当時のことを知っている親戚等がいないかなども確認します。
・登記関係資料の調査
当期事項証明書の乙欄に抵当権の設定、借入金額、借入金融機関などの事項が登記されていないかを確認します。登記簿が改製されている場合には、閉鎖謄本の内容も確認します。
・不動産業者への聴取
取引に関与した不動産業者などに資料等が残っていないかを聴取します。不動産業者に直接的な資料がない場合でも、取引台帳などの記録が残っている場合もあります。
・前所有者への聴取
登記事項証明書等から前所有者が確認できる場合には、取引金額等の記録などが残っていないかを聴取します。資料が残されていない場合でも何らかの記録や記憶がある場合には、申し述べ書などをお願いすることで対応する方法もあります。借地権等の場合には地主へも聴取します。
・借入金融機関への聴取
購入時に金融機関から借入を行っている場合には、金融機関に関係資料のコピーを提出していることから、これらの資料が残されていないかを確認します。稟議書のみの場合でも購入金額が記載されています。借入金の返済が終了するまでは、関係資料は保管されています。返済完了後の保管期間は金融機関によりますが、1年間ほどは残されているようです。最近では稟議書などが画像データとしてのこされているようです。稟議書の写しがもらえない場合には、写真や説明書で対応します。
・その他、販売広告、通帳、家計簿、手帳、日記など疎明資料の捜索
これらの疎明資料の存在について、依頼者に確認して頂くようにお願いします。競売による取得の場合には契約書等が無いので、払込証明書、競売広告等を捜索することになります。
一般の販売広告などは、例えば開発分譲された物件などでは近隣の同時期に購入した住民の方が保管している可能性もあります。新築販売されたマンションなどでは、分譲広告などが残されている可能性が高いと思います。
②買換え、交換特例の適用についての確認
買換え・交換などの特例を選択していないかどうかを依頼者へ確認します。
購入時期の所得税申告書等が残されていないかを捜索します。買換え・交換等の特例を適用していない場合でも、住宅取得特別控除等の適用を受けている場合もあります。
譲渡資産が居住用不動産の場合には住所の移転状況、事業用不動産の場合には事業所・工場等の移転状況について聴取します。移転状況などから、買換え・交換などの特例を適用している可能性がある場合には、税務当局へ内部資料の有無を確認します。
③税務当局への内部資料の閲覧申請
管轄の税務署窓口で、買換え・交換特例を適用した取得費に関する資料の閲覧申請を行います。税務当局は、取得費を引き継ぐこととなる特例を適用した申告があった場合に、内部資料として取得費の取得価額の引継に関する書類を作成し保管しています。現在はKSKシステム(国税総合管理システム、平成13年に全国運用が開始された全国の国税局(所)及び税務署をネットワークで結び、申告・納税事績や各種情報を入力して、税務行政の各種事務処理を行うシステムのことです。)にデータとして保管管理されています。
内部資料は納税者が提出した申告書、明細書、届出書ではないため、本来は閲覧申請の対象外なのですが、それらに関する納税者からの問い合わせがあった場合には、申告に影響を及ぼす事項であることから口頭による回答をするように取り扱かわれます。
④実際の取得費が資料等で確認できた場合にはそれによること
税務当局の情報集積、調査は組織的で調査権限に基づくものであるため、納税者が行う捜索で把握できないものを収集できる可能性があります。
上記①~③の資料の捜索や確認を実施しないで、安易に変動率などに基づく推計による取得費を採用しないことが重要。(専門家としての責任を追及される可能性がある。)
⑤ 申告書提出時の説明書、書面添付等について
実際の取得費が不明で、変動率などに基づく取得費で確定申告を行う場合には説明書等の添付若しくは書面添付制度を利用するか、又は計算結果だけを記載し資料添付はしないで申告するかという提出時の対象は、その案件の内容、依頼者の意向などを勘案して決めるべきと思われます。
申告後の更正の請求で認められるためには、相当な証明資料の提出が必要であり、納税者側が請求内容を立証する必要があります。疎明資料の信頼性が高ければ認められる可能性もあると思われますが、当初申告で対応すべきでは。 既に申告済みの案件で申告期限後に相談があったような場合には、出来る限りの資料を取集して更正の請求を行うしか方法がありません。
⑥ クライアントへの重要性の説明
クライアントが不動産を購入したような場合に、取得費用に関する資料を保存じておくように、その重要性を説明していくべきかと。
登記情報(権利書)などは、一般の方も重要だと認識していますが、取得費用に関する資料を安易に重視しない方もいるようです。
しかし、将来の相続や移転等に可能性を考慮してもらうことで重要性を認識してもらうべきかと存じます。
現在所有している不動産の中で、昭和28年以後の購入不動産で所得関係書類が不明の場合には、早めに契約書、疎明資料などの捜索をするべきかと存じます。
6.居住用財産の譲渡
居住用財産に係る譲渡所得の特例
① 居住用財産の軽減税率の特例(措法31の3)
② 居住用財産の特別控除の特例(措法35)
自己の居住用の特例(措法35②)
空き家の特例(措法35③)
③ 特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)
④ 特定の居住用財産の交換の特例(措法36の5)
⑤ 居住用財産を買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5)
⑥ 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5の2)
① 居住用財産の軽減税率の特例(措法31の3)
自宅(=居住用財産)を譲渡して、一定の要件を満たすときは、長期譲渡所得の税額を通常の場合よりも低い税率で計算することができる。これを軽減税率の特例といい、一般の長期譲渡所得税率20%(所得税15%+住民税5%)が6,000万円以下の譲渡所得の部分につき14%(所得税10%+住民税4%)に軽減される。
②居住用財産の特別控除の特例 自己の居住用の特例(措法35)
自宅(=居住用財産)を譲渡したときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円で控除ができる特例がある。これを、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例という。
③ 居住用財産の特別控除の特例 空き家の特例(措法35③)
相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡し、一定の要件を満たすときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる。これを、相続空き家の3,000万円の特別控除の特例という。
④ 特定の居住用財産の買換え(交換)の特例(措法36の2,36の5)
特定の自宅(居住用財産)を、平成31年12月31日までに譲渡し、代わりの自宅(居住用財産)に買換えたときは、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる。交換の場合も同様であり、これを、特定の居住用財産の買換え(交換)の特例という。
⑤ 居住用財産を買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5)
自宅(旧居宅)を平成31年12月31日までに譲渡して、新たに自宅(新居宅)を取得した場合に、旧居宅の譲渡による損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすことにより、その譲渡損失を損益通算することができる。さらに、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越して控除(繰越控除)することができる。これらの特例を、居住用財産を買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例という。
⑥ 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5の2)
平成31年12月31日までに住宅ローンのある」自宅を住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、新たな買換資産を取得しない場合でも、
一定の要件を満たすことにより、その譲渡損失を損益通算することができる。さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越して控除(繰越控除)することができる。これらの特例を、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例という。
7.居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
(1)概要
居住用財産を譲渡した場合において、一定の要件に該当するときは長期譲渡所得に係る税率を通常の場合よりも低い税率で計算する軽減税率の特例を受けることができます。
(適用要件)
本特例の適用を受けるには、次の要件のすべてに該当する必要があります。
①自己が居住していた家屋又は家屋及びその敷地の譲渡であること
日本国内にある自己が居住していた家屋を譲渡するか、家屋とともにその敷地を譲渡すること。
なお、以前に居住していた家屋や敷地の場合には、居住しなくなった日から3年目の年の12月31日までに譲渡すること
また、これらの家屋が災害により滅失した場合には、その敷地を居住しなくなった日から3年目の年の12月31日までに譲渡すること
②家屋を取り壊した場合
居住していた家屋又は居住しなくなった家屋を取り壊した場合は、次の要件のすべてに該当する必要があります。
イ その敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。
ロ その敷地の譲渡契約が家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに譲渡すること
ハ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと
③所有期間が10年超であること
譲渡した年の1月1日において、譲渡した家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること
④連年適用でないこと
譲渡した年の前年及び前々年に、本特例を受けていないこと
⑤重複して他の特例の適用を受けていないこと
譲渡した家屋や敷地について、居住用財産の買換えや交換の特例など他の特例を受けていないこと。ただし、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます。
⑥ 特殊関係者への譲渡でないこと
親子や夫婦など、特別の関係がある者に対して譲渡したものでないこと
特別の関係には、このほか生計を一にする親族・家屋を譲渡した後その譲渡した家屋で同居する親族・内縁関係にある者・特殊な関係のある法人なども含まれます。
(3)税率
本特例の適用を受けることができる課税長期譲渡所得金額については、次の所得金額の区分に応じた税率により税額計算を行います
課税長期譲渡所得金額(A) 税額
6,000万円以下 A×10% (住民税4%)
6,000万円超 (A-6,000万円)×15%(住民税5%)+600万円(住民税240万円)
8. 居住用財産(自己の居住用)を譲渡した場合の3,000万円特別控除
(1)概要
居住用財産(マイホーム)を譲渡した場合には、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から
最高3,000万円まで控除ができる特例があります。
その特例を、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例といいます。
(2)適用要件
① 自己が居住していた家屋又は家屋及びその敷地の譲渡であること
自己が住んでいる家屋を譲渡するか、家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること
なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、居住しなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。
②家屋を取り壊した場合
居住していた家屋又は居住しなくなった家屋を取り壊した場合は、次の要件のすべてに該当する必要があります。
イ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、居住しなくなった日から3年目の年の12月31日までに譲渡すること。
ロ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと
③ 連年適用でないこと
譲渡した家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。居住用財産の買換えや、居住用財産の譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例等の適用を受けていないこと
⑤ 災害によって家屋が滅失した場合
差異が国よって滅失した家屋の場合は、その敷地に居住しなくなった日から3年目の年の12月31日までに譲渡すること
⑥ 特殊関係者への譲渡でないこと
売り手と買い手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。特別な関係には、このはか生計を一にする親族・家屋を譲渡した後その譲渡した家屋で同居する親族・内縁関係にある者・特殊な関係のある法人なども含まれます。
(3)適用除外
① 本特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
②居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で
入居したと認められる家屋
③ 別荘などに用に主として趣味・娯楽又は保養のために所有する家屋
(4)適用を受けるための手続き
本特例の適用を受けるためには確定申告をすることが必要です。また、確定申告書には、次の書類を添えて提出しなければなりません。
譲渡所得の内訳書
なお、居住用財産の譲渡契約日の前日において、その居住用財産を譲渡した者の住民票に記載されていた住所とその居住用財産の所在地とが異なる場合などには、戸籍の附表の写し、消除された戸籍の附表の写しその他これらに類する書類でその居住用財産を
譲渡した者がその居住用財産を居住の用に供していたことを明らかにするものを、併せて提出しなければなりません。
<住宅借入金特例控除との関係>
措法31条の3,35条1項の規定と住宅借入金特別控除とは
重複して適用を受けることはできません。(措法41-15,16)
8.空き家とは
空き家には悪影響があり、さらに空き家が増えることを考慮すると、国策として
空き家対策を進める必要が高まってきています。
そこで特別措置法を制定して、市町村の空き家対策に法的根拠を与えたのです。
空き家対策特別措置法(H26年10月成立)では、具体的に市町村が行う施策までは定めておらず、基本方針を示したに過ぎませんが、法律の制定で対策しやすくなったのは確かでしょう。また、空き家の
放置を抑制する効果が見込まれています。
空き家対策特別措置法が施行されたからといって、すぐに全国の空き家を一斉に強制撤去する強行策がとられることはありません。空き家も所有者の財産であり、勝手に撤去することは財産権の侵害になるからです。
空き家の調査と現況の把握
まずは行政区域における空き家の現況を確認します。そのため、市町村が最初に行うのが空き家の所在と所有者の把握です。そのうえで、市町村は必要な空き家を選別することで、情報の提供や助言その他の必要な援助を行います。
特に対策が必要な特定空き家等になると措置が講じられます。
特定空き家
① 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
② 著しく衛生上有害となる恐れのある状態
③ 景観を損なっている状態
④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
措置法では保安上の危険のある空き家、衛生上有害となるおそれのある空き家について強制的に対処できる規定となっています。
改善への助言と指導
まず行われるのは、除却(解体)、修繕、立木竹の伐採等の助言又は指導です。
改善しなければ、猶予期限を付けて勧告します。
勧告に従わないと、猶予期限を付けて改善命令が出されます。
改善命令にも従わないと、いよいよ強制対処の対象になります。
強制対処の内容は、倒壊の危険がない空き家まで強制撤去することはないですが、改善の費用は所有者負担です。又は、市町村が負担してその費用を所有者に請求します。
9.固定資産税
固定資産税では住宅用地については、小規模住宅用地と一般住宅用地に区分して、それぞれ課税標準を次の用に算出する特例措置が設けられています。
区分 課税標準の計算
小規模住宅用地 一戸につき200㎡までの住宅 価格×1/6
一般住宅用地 小規模住宅用地以外の住宅用地 価格×1/3
空き家の除却等を促進するための措置
空き家等対策の促進に関する特別措置法の規定に基づき、市町村長等が、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にある空き家等(特定空家)として必要な措置をとることを勧告した場合には、その特定空き家等の敷地については、住宅用地特例の対象から除外されます。
特定空き家であると判明した場合は、これまで6分の1に軽減されていた固定資産税が
元の税率に戻ることになります。
10.居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円特別控除
(1)概要
相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡して、一定の要件に該当するときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる。
これを、被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例といいます。
なお、「被相続人居住用家屋」及び「被相続人居住用家屋の敷地等」の用語の定義は次のとおりです。
①被相続人居住用家屋
被相続人居住用家屋とは、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の要件のすべてに該当するものをいいます。
イ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
ロ 区分所有建物登記がされている建物でないこと
ハ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと
ニ 主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物であること。
②被相続人居住用家屋の敷地等
被相続人居住用家屋の敷地等とは、相続の開始の直前において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。
(2)適用要件
① 譲渡者の要件
譲渡した者が、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を取得したこと
②譲渡資産・譲渡の要件
次のイ又はロに該当する譲渡資産の譲渡であること
イ 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を譲渡するか、被相続人居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡したこと
なお、被相続人居住用家屋は次の(イ)(ロ)の要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は
次の(イ)の要件に該当する必要があります。
(イ)相続の時から譲渡の時まで事業の用・貸付の用又は居住の用に供されていたことがないこと
(ロ)譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること
ロ 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に、
被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること
なお、被相続人居住用家屋は次の(イ)の要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は
次の(ロ)(ハ)の要件に該当する必要があります。
(イ)相続の時から取壊し等の時まで事業の用・貸付の用又は居住の用に供されていたことがないこと
(ロ)相続の時から譲渡の時まで事業の用・貸付の用又は居住の用に供されていたことがないこと
(ハ)取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと
③ 譲渡時期の要件
相続の開始があった時から、3年目の年の12月31日までに譲渡すること
イ 被相続人居住用家屋を耐震リフォームし、その被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した場合(譲渡の時に耐震基準を満たしていて、耐震リフォームをしない場合を含みます)
ロ 又は被相続人居住用家屋の取壊し等後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した場合
④譲渡対価の要件
譲渡対価は、1億円以下であること
本特例の適用を受ける被相続人居住用家屋と一体として利用していた部分を別途分割して譲渡している場合や他の相続人が譲渡している場合における1億円以下であるかどうかの判定は、相続の時から本特例の適用を受けて被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した日から3年目の年の12月31日までの間に分割して譲渡した部分や他の相続人が譲渡した部分も含めた譲渡対価により行います。
このため、相続の時から被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した年までの譲渡対価の合計額が1億円以下であることから、本特例の適用を受けていた場合で、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した日から3年目の年の12月31日までに、本特例の適用を受けた被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の残りの部分を自宅や他の相続人が譲渡して譲渡対価の合計額が1億円を超えた場合には、その譲渡の日から4か月以内に修正申告書の提出と納税が必要になります。
(適用前譲渡) (適用後譲渡)
相続開始があった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に被相続人居住用家屋を耐震リフォームし、その被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した場合(譲渡した場合に耐震基準を満たしていて、耐震リフォームしない場合を含みます)又は被相続人居住用家屋の取壊し等後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した場合
⑤重複して他の特例の適用を受けていないこと
譲渡した家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(措法39)
や収用等の場合の特別控除など(措法33の4)他の特例の適用を受けていないこと
また、同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等について、本特例の適用を受けていないこと(措法35③)
⑥特殊関係者への譲渡でないこと
親子や夫婦など、特別の関係のある者に対して譲渡したものでないこと
特別の関係には、このほか生計を一にする親族・家屋を譲渡した後その譲渡した家屋で同居する親族・内縁関係にある法人なども含まれます。
(3) 他の特例との適用関係
① 空き家特例を適用する場合、その譲渡については相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算)は適用できない。
②同一年中に空き家特例と相続人の自己居住用財産の譲渡があった場合、それぞれの規定は廃除されていないので、それぞれ適用できる。しかしその特別控除額は最高3,000万円を限度額とする。
③ 居住用家屋取得相続人は空き家特例とともに次の特例を併用することはできない。
居住用財産の買換えの特例
居住用財産の交換の特例
買換えの譲渡損失の損益通算
譲渡損失の損益通算及び繰越控除
④ 自己居住用財産の譲渡特例の適用年については、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除は適用できないが、空き家特例との併用は可能である。
(4) 空き家特例の問題点
① 耐震基準
被相続人居住用家屋は、昭和56年5月31日以前でなければならない。譲渡のときにおいて耐震基準を満たす必要あり。既に37年経過した古家であり、譲渡のときに
耐震リフォームができるであろうか?予め耐震リフォームすると売買価格が上がる結果となるのでは。
② 建物取壊しての譲渡
取壊しを買主名義で行うと要件を満たさなくなるので、売買においては、売主が取壊しを
行うことに注意しなければならない。
③ 譲渡収入には通常不動産売買の際に清算対象とされる固定資産税清算金が含まれる。
売買契約書における売買対価1億円であっても固定資産税清算金10万円となっていると総額で1億円を超えるため、要件を満たさなくなるので注意。
参考文献
武田秀和 土地建物の譲渡所得Q&A H25.4.6 税務経理協会
武田秀和 譲渡所得の実務 H29.1.23 千葉県税理士協同組合
所得税法の基本から措置法の特例まで
国武久幸 不動産(有価証券)譲渡の取得費が H30.6.8 千葉県税理士会市川支部
不明の場合の実務対応
税経通信6月号 将来的な「空き家」いつ売却する
不動産譲渡の特例と時期を見極める H30.6 税務経理協会
平川忠雄編著 居住用財産に係る税務の徹底解説 H29.12 税務研究会出版局
千葉県税理士会 平成29年度分確定申告書の留意事項 H30.1.29
平成29年度第6回研修会レジュメ